Restoration Ruin / Bap-Tizum [Import, From US] キース・ジャレット

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00000J83G
キース・ジャレットという「人」に興味がない人は、聴く必要がないかもしれない。決して「素晴らしい」作品とはいえないからだ。「キース・ジャレットという超大物ピアニストの作品をまず何か聴いてみたい」という人は、「ケルン・コンサート」や「ラ・スカラ」といった素晴らしいフリーインプロヴゼーションのソロアルバム、あるいはバンドものの「マイ・ソング」などがいい。これらを聴いて、更にキースの幅広い音楽活動の軌跡に触れたい人がこの「レストレーション・ルーイン」や「スピリッツ」といった問題作(?)にアプローチしてみるといいのではなかろうか。

キースはビートルズとボブ・ディランが好きだったらしいが、その影響を受けたフォークソングのアルバムだ。このアルバムの凄いところといえば、弦楽四重奏を除く全ての楽器を、キースが演奏しているところだろう。リコーダーやソプラノ・サックスなんか、普通にうまい!ピアノにとどまらないキースの多彩ぶりが発揮されているということはできる。

一方、肝心のヴォーカルはそんなにうまくない。「普通に歌っている」という程度だ。でもソロピアノのような変な奇声はない・・・

ジャケット裏面に面白いことが書いてあったので、分かる範囲で訳してみる。
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(以下裏ジャケットの訳)

このアルバムに、どんな風にアプローチすればいいかって?簡単なことさ。「聴け。」でも、シラノ・ド・ベルジュラックが彼の鼻の質問にアプローチしたよりももっと多くのアプローチの方法がある。

驚いて:わお!これを全部一人でやったの?
現実的に:現代的なテクニック。技術的な意味でも芸術的な意味でも創造的。これが答えさ。+キース・ジャレット。
観察して:これらの歌は、今日のVisible Generationの特別な目を通して世界を見た、現代のコメントの優れたコレクションさ。
Comprehending:彼らは、遠回しだが辛辣に話し、非直接的に鋭く定義された結論を明るみに出す。

量的に:他の誰が、こんなに多くの様々なことをできるだろうか?

質的に:他の誰が、こんなに多くの様々なことを、これほどうまくできるだろうか?

統計的に:彼は”For You and Me”では、2つのギターパートすらも演奏している。

音楽学的に:最も現代的で印象的な才人による、もっとも印象的な現代のステートメント。

歴史学的に:こんなに何かを出来たのはこれが初めてだ。

哲学的に:思いついたことを、人は出来るのだ。

鑑賞して:何にも問題はない。これは良いアルバムだ。たとえ別の3人が作詞、作曲、編曲をして、何人かで演奏したとしても。

不満そうに(1):ジャズファンは、哲学的なフォークがを作り、歌うキース・ジャレットを受け入れるだろうか?
自信満々に:それで?
不満そうに(2):ポップス・ファンの大衆は果たして聴くのだろうか?
自信満々に(2):テキサス・レンジャーズがかつて言ったように、もし彼が正しくて、そうあり続けるなら、銃は彼を止められはしない。
質問して:モダン・ジャズ・ピアニストとしての彼の素晴らしい評価がありながら、どうして彼が演奏する全ては、一連の放埓なホンキートンクなの?
受け入れて:彼は、ピアノでする必要があること以外の全てをうまくやっている。
冷笑して:ドノヴァンはもっとうまく歌うし、セゴヴィアはもっとうまくギターを弾くよ。
突き返して:ジャレットはドノヴァンより演奏で勝り、セゴヴィアよりもうまく歌うのさ。
悪意に満ちて:どうして、彼はストリングス・パートも演奏しなかったの?
現実主義的に:キース・ジャレットにだって、限界はあるのさ。
懐疑的に:キース・ジャレットがこなにうまく歌を書き、うまく歌い、自分で伴奏出来たなんて、誰が想像しただろうか?
確信して:「キース・ジャレットは、心に思い描いたことは音楽で何でもできてしまう」(チャールズ・ロイド)

(以上)

ああ、疲れた。こんなに面白い解説文見たことないな。ちょっと、訳が難しくて不正確なところもあるかもしれないけど、大まかにはこれで意味が通じると思う。ともかく、天才ピアニストの別の顔が見れるという意味で面白い。

映画「パフューム ある人殺しの物語」オリジナル・サウンドトラック [Soundtrack] サイモン・ラトル,ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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サイモン・ラトル指揮、ベルリン・フィルが映画音楽をやるっていうので、興味を持った。名門オケも時代に合わせて活動の幅を広げることにしたのだろうか?

ともかく、この映画には衝撃を受けた。香料作りの天才である主人公が何のためらいもなく美女を次々と殺し、そのエキスを取り入れ、最高の香料を作っていく。常に不気味さが漂っていて、見終わった後もしばらく妙な感覚が残っていたのを覚えている。

音楽もまた素晴らしく、映像無しでも「音楽作品」として聴きごたえがある。弦楽器が独特な美しさと艶めかしさを醸し出し、映画のテーマである「香り」が実に見事に表現されている。

Radiance [CD, Import, From US] キース・ジャレット

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2002年の日本公演。感動的な「ラ・スカラ」でのソロ以来、久しぶりのソロ録音です。キースのピアノ・ソロと言えば、20~30分、あるいはそれ以上の長い演奏がお馴染みでしたが、この作品で初めて、短い即興演奏をいくつも続ける形で演奏しました。これまでのソロと異なり、冒頭は具体的な主題を持たない漠然としたフレーズから始まり、段々と形を成していきます。特にPartⅢのこの上無く美しいメロディに収斂していく過程は感動的です。また、いつものことながら、ピアノの音が素晴らしく美しいです。こんなに美しいピアノの録音はないだろう、というくらいです。これはキースだけでなく、エンジニアの力も合わさっての成果でしょうね。

CDの中には、キース自身のノートが入っています。アルバムのコンセプトを知る上で、奏者の考えが一番の手がかりになるでしょう。最初の段落だけ訳して掲載しておきます。
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この音楽について
日本へ行く数ヶ月前、私はあるアイデアを思いついた。私はこれまで、エネルギーをその都度何か新しいものに変換することに関わってきたが、今回はその変換したものを実際の形式の中に含めてしまおうと思ったのだ。私の過去のソロ・コンサートのリスナーの多くは、(少なくとも)一瞬、冒頭に主題素材―あるいは動機素材素材が欠如していることにショックを受けることだろう。素材は一見して全く動機という種類のものではない。これは偶然ではない(あるいは計画されたものでもない)。私は早まった結論を出したくなかったのだ。我々がどのように深遠な思考へとたどり着くかは、我々が事前に何も考えていないということと深く関係している。私は椅子に座って深く考え込むことなしに、音楽を発生するがままにさせようとした。私は手に(特に左手に)何かを言わせたかったのだ。これが私が試みたかったプロセスの一部である。何かが変換する瞬間というのは滅多に見られるものではない。あるいは我々が不注意だからそう感じるのかもしれない。我々が変換する瞬間にたどり着くまさにその場に居合わせる為には、多くのプロセスを経なければならない(もしも我々が注意深く見ているなら)。しかし多分これは間違っているのかもしれない。それらは我々がその場にいなくとも起こり続けているのかもしれない。リスナーは辛抱強く私のやることを見守っていただきたい。全てのことはリスクを伴う。しかしそのようにしてこれまで私はあなたがたを様々な場所へ連れて行ったわけだし、今回皆さまをがっかりさせようと思ってこのようなことをしているわけではないのだ。~~~(訳:CD-ROG.com)
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こんな感じですが、もしこれを読んで聴いてみたい!と思った方は是非聴いてみてください。

Inside Out [Import, From US] キース・ジャレット

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2001年発表。キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・デジョネット3者が繰り広げるフリー・インプロヴィゼーション。曲による束縛のない「無」の状態から、音楽が自然と形成されていくプロセスを聴くことができる。

どのトラックも素晴らしいが、特に4番目の”Riot”が印象深い。個人的には、このアグレッシブな世界は、ハードロックとも通ずるように感じた。このトラックに限らず、このアルバムの世界は「ジャズ」という枠を越えている。この3者の音楽的イディオムの豊富さには驚嘆する。真の意味で「ジャンルの垣根を越える」ことのできる人たちだからこそ可能な音楽だと思う。

Haydn: String Quartets Op. 54, Nos. 1- 3 Kodaly Quartet

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今回は作品54-3の解説を掲載します。軽やかで、ヴァイオリンの自由に飛翔するかのように駆け巡る感じがいいですね。ヴァイオリニストから依頼されて作ったという作品です。以下の内容は、また後日、書き換えるかもしれません。

ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809):《弦楽四重奏曲》ホ長調 作品54-3 Hob.Ⅲ-59
1788年頃に作曲されたとされる本作品は、エステルハージ侯爵家の楽団にいたヨハン・トスト(ヴァイオリニスト、実業家。楽団では第2ヴァイオリンを担当、後に軍需品の政府納入によって財をなした)から依頼を受けて、ハイドンが作曲したものである。
トストは楽団を去ってパリに行く際、パリでの演奏のために宮廷楽長ハイドンに交響曲と弦楽四重奏曲の作曲を依頼した。ハイドンはこの依頼に応えて「第88番」「第89番」の交響曲、それに本作品を含む作品54・55(計6曲)の弦楽四重奏を作曲、更にトストにパリでの楽譜の出版権も与えたという。このような経緯から、作品54・55の6曲は合わせて「第1トスト四重奏曲」と呼ばれている。
曲はヴァイオリニストからの依頼ということを意識して作られたからか、全体を通して第1ヴァイオリンのパートに技巧的な箇所が多くみられる。明るく、軽やかな響きが魅力の佳作である。
第1楽章 アレグロ、ホ長調、2分の2拍子、ソナタ形式。第2ヴァイオリン・ヴィオラと第1ヴァイオリンが対話しているかのような愛らしい主題で曲は始まる。推移部に出てくる3連符のモチーフは、展開部においてより華やかに発展し、盛り上がりを見せる。 
第2楽章 ラルゴ・カンタービレ、イ長調、4分の3拍子、3部形式。上2声と下2声の対話で曲が始まる、美しい楽章。ゆったりとしたテンポのなか、装飾的な旋律が軽やかに奏される。イ短調の中間部では、下3声部の楽器は完全に伴奏に徹し、第1ヴァイオリンが64分音符の息の長い装飾的で即興的な旋律を奏でる。
第3楽章 メヌエット・アレグレット、ホ長調、4分の3拍子、3部形式。軽快な符点リズムが印象的な、活気あふれるメヌエット。ユニゾンで始まる中間部(トリオ)のモチーフは変形されて続く終楽章の主題に使用されていると見ていいだろう。
第4楽章 フィナーレ・プレスト、ホ長調、4分の2拍子、ロンド・ソナタ形式。第2ヴァイオリンが主旋律を担い始まる急速なフィナーレ。第1ヴァイオリンの幅の広い跳躍が際立つ。コーダの部分で、突如短調の暗い響きが出現し、反復進行を経ながら主調に戻る部分は、聴き手の意表をつくハイドンならではの見事な手法。
(2011年4月21日、文:CD-ROG.com)